※TURN20「皇帝 失格」までの前提で書かれてます。 |
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爆発に乗じてヴァルトシュタイン卿の追撃を逃れ、辿り着いたのは見覚えのある遺跡だった。 正確には遺跡のあった場所、だろうか。 洞窟を支えていた岩盤は瓦礫の山と化し、粉塵が視界を遮る。 濃く残った火薬の臭いが、ここが爆発の中心に近いことを示唆していた。 見る影もなく崩れたここを、あの遺跡だと判断できたのは、そこにその扉があったからだ。 周囲の惨状とは対照的に、刻まれた不可思議な文様にすら僅かな損傷も見受けられない。それどころか、周囲の壁と呼ぶべきものだけでなく、その向こう側も崩れ去ってしまっているもかかわらず、扉だけが厳然と存在しているのだ。 その扉の前に、彼は立っていた。 土埃の舞う暗い空間のなか、そこにだけ淡い光が指し、浮かび上がる姿はいっそ神々しくすら見えた。 思わず、息を飲む。 彼の濃紫の衣装を更に濃く染めているのが血液だと気がついたからだ。 そしてそれは、彼の左目から、いや、左目があったであろう場所から流れ出ていた。 抉られ刺し焼かれたようなそこから吹き出る鮮血に、沸き上がった衝動を悟られぬよう押さえ込む。 小さく息を吐いて、彼を見据えた。 今、彼は独りだ。 黒の騎士団は既に「ゼロ」の生存を否定した。 味方から追われ、誰の助力も望めず、こうしてただ一人自分と対峙しているのは、そのまま一年前を思い起こさせる。 しかし、あの時に見た、開き直ったような様子は全く無い。 ただ静かにそこに立ち、しかし圧倒的な存在感を以て自分を見下ろしていた。 喉元に剣を突きつける。 この出血ならば、放っておいてもいずれ死ぬだろう。 だが、それでは意味がない。 「俺を選べ」 瞬間。 …震えを、誤魔化せただろうか。 聞いたことのない声音だった。 高圧的でも、縋るでもない、空気すら震わせることもない程、静かなそれは。 だが、今更何を、と思う。 知っている筈だ。 自分が撃った弾頭が、トウキョウを壊滅させたことを。 一千万と数えられた命のなかに、彼の最愛の妹が含まれていることを。 その遠因が、彼自身がかけたギアスだということも、或は。 「何度も言わせるな。許しは、乞わない」 あと半歩も踏み込めば、この手で彼の命を奪うことができる。 そうしなければならない。 仮面の男が踏みにじってきた掛替えの無い願い、奪ってきた多くの命への贖罪は、彼と彼女への想いと共に、自分が背負えばいい。 現世にあらざるべき呪われた力と、その力に呪われた彼の絶望も、自分が。 しかし、最後のひと突きに力を込める前に、つ、と彼が前進した。 白い喉に、ぷつっと紅い珠が浮かぶのを見て、思わず剣を引く。 しまった、と眉を顰めた自分に、彼は少し微笑ったように見えた。 心の奥底にあった想いを、ひとつ残った深紫の瞳が見透かしていた。 ───許せないことなんて無い、許したくないだけ。 其れは諾うには、あまりに真実に近い言葉を思い出す。 そうだ。自分が許せなかったのは彼のことではなかった。彼を許してしまっている自分を、許せなかっただけなのだ。 呪いをかけられ、裏切られ続けても尚、自分は彼を愛していた。 しかしそれを認められるほど、自分は強くなかった。 だからこそ彼と敵対して、彼を憎むことでしか立っていることができなかった。 つまらない意地だ。 そんなものが、結果として自分だけではなく、彼からも余りにも多くのものを奪った。 何が十字架だ。絶望に苛まれていたのは、自分の方だった。 追い詰められて、死に急ぐしかできなかった弱さを、そのせいで引き起こしてしまった惨劇を、また彼のせいにして逃げようとしていたのだ。 「俺を選べ、スザク」 そんな自分を、今、彼は許すと言っているのか。 そんな僥倖が、自分に与えられていいのだろうか。 罪に対する罰ではなく、罪悪感に裏打ちされた義務感でもなく、ただ、その手を取れと言っている。 守りたかったものは既に無く、それでも 世界を変える、そのために。 彼の前に膝をつく。 彼を傷つけた剣を、そのまま彼に差し出す。 これは服従でも忠誠でもない。だけど、今度こそ、自分で選んで自分で決める最後の願いだ。 この想いに殉ずることを、他でもない彼に誓う。 「イエス、ユア─────」 |
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